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この記事の結論
- 欧州の医薬・ヘルスケア株は「薬をつくる(製薬)」「他社の薬をつくる(CDMO)」「機器・診断」「体につける・入れる」の4層で、儲け方がまったく違います
- 2026年8月29日・205銘柄の実測では、医薬・ヘルスケアのPER中央値は23.96倍で全業種中もっとも高い結果でした(全体は17.74倍)
- 高PERは期待の裏返しでもあります。ザルトリウス(バイオ製薬用機器)はPER79.87倍と、全体で2番目に高い数字でした
- 特許切れ・顧客依存・薬価規制・開発失敗というリスクは、製薬・CDMO・機器で層ごとに違う形で効いてきます
「ヘルスケアは高齢化が追い風だから安泰」。この言い方は半分しか合っていないと思います。当サイトがこれまで個別に取り上げてきた欧州の医薬・ヘルスケア企業を見渡すと、扱っている中身は製薬会社もあれば、薬を一切持たずに他社の薬を製造だけする会社、画像診断装置を作る会社、補聴器やインプラントを作る会社まで、実にばらばらです。「ヘルスケア」とひとくくりにすると、儲け方の違いも、リスクの違いも見えなくなります。
この記事では、欧州の医薬・ヘルスケア株を4つの層に分けて整理したうえで、当サイトが実測したPERの数字から「なぜこの業種の評価が高いのか」を確認し、最後に層ごとのリスクを同じ熱量で見ていきます。
医薬・ヘルスケアは一枚岩ではない――儲け方が違う4つの層
まず全体像です。当サイトが個別記事で扱っている欧州の医薬・ヘルスケア企業を、儲け方の違いで4つの層に分けると次のようになります。
| 層 | 儲け方 | 特有の断崖 | 当サイトで扱う企業(例) |
|---|---|---|---|
| ①薬をつくって売る(製薬) | 自社開発の薬を特許期間中に売る | 特許切れで利益が落ちる「パテントクリフ」 | メルク、イプセン、レコルダーティ、ALKアベロ、バヴァリアン・ノルディック |
| ②他社の薬をつくる(CDMO) | 特許を持たず、製薬会社から受託製造する | 特許切れの断崖はないが、顧客の発注量に左右される | ロンザ、ジークフリート |
| ③機器・診断 | 画像診断装置や検査機器を病院に販売 | 病院の設備投資サイクルに連動し、景気の影響を受けやすい | シーメンス・ヘルスイニアーズ、カールツァイス・メディテック、ディアソリン、アンブ、ザルトリウス |
| ④体につける・入れる | インプラントや補聴器を個人に販売 | 加齢とともに需要が増える一方、価格競争もある | ストローマン、ソノヴァ、デマント |
①の製薬会社は、特許が切れた瞬間に同じ成分の後発品が安く出てくるため、利益が急に落ちる崖があります。当サイトのイプセンの記事では、主力薬に後発品競争があることを記載しています。一方、②のCDMO(受託製造)は自社に特許を持たないので、この崖そのものがありません。そのかわり、注文をくれる顧客企業の都合に業績が左右されます。ロビの記事では、モデルナ向けの受託製造が2023年の売上の約40%を占めていたとされることを記載しており、この依存をどう埋めるかが同社の論点として残っています。
③の機器・診断は、薬とは違う理由で業績が動きます。病院の予算がつかなければ、装置がどれだけ優れていても買い替えは先送りされます。景気に対する感応度は、①の製薬会社より高いというのが、当サイトが各社の決算を追ってきた実感です。④の体につける・入れる層(補聴器・インプラント)は、加齢とともに需要そのものが増える点で、4層のうちもっとも「高齢化の追い風」を素直に受けやすい層だと思います。
PER中央値23.96倍は全業種で最も高い――2026年8月実測(205銘柄)
この4層をまとめて「医薬・ヘルスケア」という業種でくくると、市場からの評価はどうなっているのか。2026年8月29日時点で欧州株205銘柄のPERを実測しました。その結果、医薬・ヘルスケアのPER中央値は23.96倍で、全業種の中でもっとも高い数字でした。205銘柄全体の中央値は17.74倍なので、この業種だけ市場が高い評価をつけていることになります。
理由として一般に説明されるのは、需要が景気に左右されにくいこと、高齢化という長期の追い風があること、特許による参入障壁があることの3つです。ただし、PERが高いということは、それだけ将来の成長がすでに株価に織り込まれている、つまり「期待が入っている」ということでもあります。今回の実測でも、②の層に属するザルトリウス(バイオ製薬用機器)はPER79.87倍で、205銘柄中2番目に高い数字でした。期待が高いということは、その期待が外れたときの下げ幅も大きくなりうるということです。
リスクを同じ熱量で――特許切れ・顧客依存・薬価規制・開発失敗
「高齢化だから安泰」という言い方に足りないのは、リスクの部分だと思います。層ごとに整理すると次のとおりです。
- 特許切れ(製薬)。主力薬の特許が切れれば、後発品との価格競争が始まります。前述のイプセンの例のとおりです
- 顧客依存(CDMO)。特定の顧客への売上依存度が高いと、その顧客の発注方針が変わるだけで業績が動きます。前述のロビの例のとおりです
- 薬価規制。欧州の多くの国では公的保険が薬の値段を決めるため、企業側の判断だけで値上げを通すのが難しい構造になっています。当サイトで扱ってきたラグジュアリー株が「値段を自分で決められる」商売であるのとは正反対です
- 開発の失敗。新薬の治験が失敗すれば、それまでに投じた数年分の開発費がそのまま失われます
③の機器・診断も「安泰」ではありません。当サイトが扱った企業の中では、カールツァイス・メディテック(眼科向け医療機器)は増収でも減益となり、配当が2年で1.10ユーロから0.55ユーロへ半減しました。高齢化という追い風のある業種でも、個別企業のレベルでは減配が起きる。この事実は、業種を語るうえで意見の一部として書いておく必要があると思います。
日本の証券会社ではこれらの企業の株を直接買うことができません。SBI証券・楽天証券・マネックス証券は欧州の現地市場を取り扱っていないためで、個別に株を選んで持ちたい場合、日本からはサクソバンク証券がほぼ唯一の入り口になります。層ごとにリスクの性質が違うからこそ、1社に絞らず層をまたいで分散する意味があると筆者は考えます。
まとめ:どの層に投資しているかを意識する
- 欧州の医薬・ヘルスケア株は製薬・CDMO・機器診断・装着埋込の4層で儲け方が違う
- 2026年8月の実測(205銘柄)でPER中央値23.96倍は全業種で最高。それだけ期待が入っている業種でもある
- ザルトリウスのようにPER79.87倍まで評価が伸びている銘柄もあり、期待が外れたときの下げ幅も相応に大きくなりうる
- リスクは層ごとに違う。特許切れ(製薬)・顧客依存(CDMO)・薬価規制・開発失敗を同じ熱量で見る
- 個別株はサクソバンク証券が入り口。「どの層に投資しているか」を意識して選ぶことが大切だと思います
この業種は「人が老いる」という確実な追い風がある代わりに、値段を自分で決められない商売でもあると思います。
この記事の検証方法
- PER中央値(医薬・ヘルスケア23.96倍、205銘柄全体17.74倍)およびザルトリウスのPER79.87倍は、2026年8月29日に欧州株205銘柄を実測した結果です
- イプセンの後発品競争、ロビのモデルナ向け依存(2023年売上の約40%)、カールツァイス・メディテックの配当推移(2年で1.10→0.55ユーロ)は、いずれも当サイトの各社個別記事にすでに記載している事実を引用しています
- 4層の分類および各企業の事業内容は、当サイトの個別記事の記載にもとづく整理です
- 本記事は特定の薬・治療法の効果には言及していません
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています(本記事で扱う個別企業を保有しているとは限りません)
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買や特定の医薬品・治療法を推奨するものではありません。記載のPER・配当等の数値は本文記載の各時点で確認した情報に基づいており、変更される場合があります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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