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この記事の結論
- EU-ETS(EU排出量取引制度)は2005年に始まり、現在は第4フェーズ(2021〜2030年)。EUの温室効果ガス排出量の約40%をカバーし、2030年までに対象部門の排出量を2005年比62%削減する水準までキャップが引き締められています
- 投資家にとってのEU-ETSは環境ニュースではなく、特定業種の損益計算書に直接効くコストの話です
- 効くのはセメント・鉄鋼などのエネルギー集約型産業、発電、航空(2012年から)、海運(2024年から)。2027年からは建物・道路輸送(ETS2)が加わる予定です
- 本文では、当サイトで取り上げている欧州企業を例に、どの業種が対象になるかを整理します
「EU-ETS」や「排出量取引制度」という言葉を見て、環境ニュースだと思って読み飛ばしていないでしょうか。結論から言うと、これは欧州株の投資家が決算を読むうえで無視できない制度です。対象業種の企業は、排出できる量に上限(キャップ)を課され、その枠を市場で売買する必要があります。枠を買う費用は、そのまま損益計算書に乗るコストになります。
この記事では、EU-ETSの制度としての骨格を欧州委員会の公式ページにもとづいて整理したうえで、「どの業種に、どういう形でコストとして効くのか」を、当サイトで扱っている企業の例とあわせて見ていきます。炭素価格(EUAの取引価格)の水準や推移、排出枠の年間削減率、無償割当の廃止スケジュールといった、当サイトで実測できていない数値には踏み込みません。制度の骨格と、対象業種の見分け方だけを押さえる記事です。
EU-ETSとは:2005年開始のキャップ・アンド・トレード、いま第4フェーズ
EU-ETS(EU Emissions Trading System、EU排出量取引制度)は2005年に始まった、世界で最初の大規模な排出量取引制度とされています。仕組みは「キャップ・アンド・トレード」と呼ばれる方式です。まず対象となる産業全体が排出できる温室効果ガスの総量に上限(キャップ)を設け、この上限は年々引き下げられます。企業には排出枠が割り当てられ、実際の排出量が枠より少なければ余った枠を他社に売る、あるいは翌年に持ち越すことができます。逆に枠が足りなければ、市場で買い足す必要があります。
制度は数年ごとに区切られた「フェーズ」で運用されており、現在は2021年から2030年までの第4フェーズにあたります。欧州委員会の公式ページによると、EU-ETSはEUの温室効果ガス排出量の約40%をカバーしており、2030年までに対象部門の排出量を2005年比で62%削減する水準まで、キャップが段階的に引き締められています。つまり、対象業種の企業にとって「排出枠のコストは今後も重くなる方向で設計されている制度」だと理解しておくのが実務的です。
対象は6部門。航空・海運・建物と広がってきた対象範囲
EU-ETSの対象部門は、制度開始時からそのままではありません。欧州委員会の公式ページでは、対象部門として次の6つが挙げられています。
| 対象部門 | 対象になった時期 |
|---|---|
| 発電・熱生成 | 制度開始(2005年)から |
| エネルギー集約型産業(セメント・鉄鋼・化学など) | 制度開始(2005年)から |
| 航空 | 2012年から(ただし域外路線は2012年に一時停止) |
| 海運 | 2024年から |
| 建物・道路輸送 | ETS2として2027年から運用予定 |
| 自治体の廃棄物焼却施設 | 段階的に拡大予定 |
この表を見て気づくのは、「最初からずっと同じ業種が対象だった制度」ではないという点です。2005年の制度開始時は発電と重工業だけが対象でしたが、2012年に航空、2024年に海運が加わりました。対象範囲は一貫して広がる方向で動いてきており、この先も同じ流れが続くと見ておくのが自然です。
投資家にとっての意味:コストになるのは「業種」で決まる
EU-ETSが投資判断に関わってくるのは、突き詰めれば「自分が持っている、あるいは調べている企業が対象業種に入っているかどうか」だけです。ここでは当サイトで取り上げている企業を例に、対象業種の実感をつかんでおきます。
エネルギー集約型産業では、セメントのように製造工程そのものから二酸化炭素が出る業種の負担が構造的に重くなります。当サイトで取り上げているチェメンティール(伊・セメント)は、EU-ETSとCBAM(炭素国境調整メカニズム)が北欧・バルト事業の利益を圧迫していると報じられている企業です。セメントは原材料の石灰石を焼く工程自体から排出が生じるため、生産量を減らさない限り排出量そのものを大きく下げにくく、規制コストが利益に直接効きやすい業種だと言えます。
航空は2012年から対象で、当サイトで取り上げている企業ではイージージェット(英)、ルフトハンザ(独)、エールフランスKLM(仏)が該当業種にあたります。燃料を燃やす以上、排出枠のコストは運航コストの一部として決算に織り込まれ続ける構造です。
発電はEU-ETSの中でも最大規模の対象部門です。当サイトで取り上げている企業ではエネル(伊)、イベルドローラ(西)、エンデサ(西)、SSE(英)などが該当します。ただし発電会社が一律に不利というわけではありません。同じ発電部門でも、火力比率が高い会社ほど排出枠の購入コストがかさみやすく、再生可能エネルギーや原子力の比率が高い会社ほど負担は相対的に軽くなります。「規制対象だから株価が上がる、下がる」と単純に決まるものではなく、各社の電源構成を見て初めて意味が出てくる話だと考えています。
2027年のETS2:建物・道路輸送に対象が広がる
もう一つ押さえておきたいのが、2027年から運用が予定されているETS2です。これは建物の暖房用燃料や道路輸送用の燃料を対象にした、既存のEU-ETSとは別枠の制度で、燃料供給事業者がその対象になります。実質的には、家庭やオフィスの暖房、自動車のガソリン・軽油といった、これまで直接の対象ではなかった燃料消費にまで規制コストが及ぶ方向への拡大です。
2005年の発電・重工業から始まり、2012年に航空、2024年に海運、2027年に建物・道路輸送。EU-ETSの歴史は「対象範囲がじわじわ広がってきた歴史」でもあります。炭素価格の水準を予想する必要はなく、この「対象が広がる方向」だけを押さえておけば、決算を読むときに立ち止まる場面が変わってくるというのが、この制度に対する筆者の考えです。なお、2026年7月に制度改正案が発表されたと報じられていますが、内容の詳細は当サイトで確認できていないため、ここでは触れません。
まとめ:業種を知っていれば、決算の読み方が変わる
- EU-ETSは2005年開始・現在は第4フェーズ(2021〜2030年)で、EUの温室効果ガス排出量の約40%をカバーする
- 2030年までに対象部門の排出量を2005年比62%削減する水準までキャップが引き締められている
- 対象は発電・エネルギー集約型産業・航空(2012年〜)・海運(2024年〜)・建物と道路輸送(ETS2、2027年予定)・廃棄物焼却施設の6部門
- 投資家にとっては環境ニュースではなく、特定業種の損益計算書に効くコストの話として読むのが実務的
- 自分の持っている銘柄がこの6部門に入っているかどうかを、決算を読む前に確認しておく価値がある
制度の細部や炭素価格の水準まで追いかける必要はないと思います。「自分の持っている企業が、EU-ETSの対象業種に入っているかどうか」を知っているだけで、決算発表でコスト増の理由が出てきたときに、驚かずに読めるようになると思います。
この記事の検証方法
- EU-ETSの開始年・フェーズ区分・カバー率(約40%)・2030年削減目標(2005年比62%)・対象6部門の範囲と対象開始時期は、欧州委員会の公式ページ(2026年8月29日確認)を出典としています
- 排出枠の年間削減率、無償割当の廃止スケジュール、炭素価格(EUAの取引価格)の水準・推移は、当サイトで実測できていないため本文に記載していません
- チェメンティールに関するEU-ETS・CBAMの影響は、当サイトのチェメンティール株の記事で確認済みの報道内容にもとづいています
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています(本記事で取り上げた個別企業を保有しているとは限りません)
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載の制度内容・数値は本文記載の時点で欧州委員会公式ページ等により確認した情報にもとづいており、制度改正等により変更される場合があります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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