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この記事の結論
- 資源・素材株には商品市況・炭素コスト・最終需要の3つの力が効きます。しかもこの3つは同じタイミングでは動きません
- 資源・素材株は掘る/つくる/加工する/流通させるの4層に分けると、それぞれ性格がまったく違います
- 炭素規制は素材メーカーにとって重荷ですが、CBAM(炭素国境調整措置)を通じて域内メーカーを守る仕組みでもあります
- 資源・素材株は業績の振れが大きく、指標が異常な水準になりやすい業種です。当サイトが投資を見送った実例をもとに整理します
欧州株には、セメント・鉄鋼・ガラス・特殊紙・化学品といった「素材」を手がける企業が数多く上場しています。ハイデルベルク・マテリアルズ、サンゴバン、シーカ、グレンコア——業種は違っても、日本の個人投資家にはあまりなじみのない名前が並びます。
これらの企業に共通して効いてくるのが、商品市況・炭素コスト・最終需要という3つの力です。厄介なのは、この3つが同じタイミングでは動かないことだと思います。この記事では、資源・素材株に何が効くのかを整理し、業種の中でも性格が違う4つの層に分けて見ていきます。個別銘柄の株価や業績の予想はしません。当サイトにできるのは、あくまで「何が効くか」の骨組みを示すところまでです。
資源・素材株に効く3つの力——商品市況・炭素コスト・最終需要
資源・素材株の業績を動かす力は、大きく3つに分けられると思います。
第一に商品市況です。原油・銅・鉄鉱石といった原材料の価格が上下すると、素材メーカーの仕入れコストが変わります。ただし、仕入れが上がったからといって、その分をそのまま製品価格に転嫁できるとは限りません。転嫁できる力(プライシングパワー)の強さは企業ごとにまちまちです。当サイトでは商品価格そのものの水準や先行きは扱いません。実測していない数字を示すことになるためです。
第二に炭素コストです。セメント・鉄鋼・ガラスといった業種は、製造工程そのものから二酸化炭素が発生します。欧州にはEU-ETS(EU排出量取引制度)という仕組みがあり、対象企業は排出した分の枠を市場で調達する必要があります。仕組みの詳細はEU-ETSを解説した記事にまとめています。
第三に最終需要です。素材そのものへの需要は、建物・自動車・機械といった「素材を使う側」の景気に連動します。ただし素材の需要は最終需要よりも遅れて動く傾向があると考えられます。建設計画が決まってから実際に資材が発注されるまでにはタイムラグがあるためです。
この3つが別々のタイミングで動くために、資源・素材株では「決算の内容は悪くないのに株価が動かない」「悪いはずなのに買われる」という現象が起きやすいのだと思います。ひとつの数字だけを見て良し悪しを判断しにくい業種だと言えます。
掘る・つくる・加工する・流通させる——4つの層で性格が違う
資源・素材株とひとくくりにされがちですが、事業の位置づけによって性格はかなり違います。当サイトが記事にしている企業を、川上から川下へ4つの層に分けて整理しました。
| 層 | 効きやすい力 | 性格 | 当サイトの関連記事 |
|---|---|---|---|
| 掘る | 商品市況に最も直結 | 振れ幅が大きい | グレンコア(資源・商品取引) |
| つくる | 炭素コストの直撃を受ける | 規制が参入障壁にも重荷にもなる | ハイデルベルク・マテリアルズ・ブッツィ・チェメンティール(セメント)、ザルツギッター(鉄鋼)、ビドララ(ガラス容器)、ミケル・イ・コスタス(特殊紙) |
| 加工する | 技術力で差がつく | 素材そのものより利益率が高い傾向とされる | シーカ(建設用化学品)、EMSケミー(化学)、サンゴバン(建材) |
| 流通させる | 在庫と物流 | 価格変動を利益に変えられることも、逆もある | ブレンタッグ(化学品商社)、ハウデン・ジョイナリー(建材卸売) |
「掘る」層は商品価格が上がればそのまま追い風になりやすい半面、下がれば直撃を受けます。「つくる」層は炭素コストという固定的な負担を抱えながら、原料高と製品価格転嫁のせめぎ合いに立たされます。「加工する」層は素材に技術を組み合わせて付加価値をつける分、素材そのものの価格変動から距離を置けている面があります。「流通させる」層は自分では価格を作らず、仕入れと販売の差で稼ぐため、在庫の持ち方ひとつで結果が変わります。同じ「資源・素材」という括りでも、リスクの取り方はまったく別物だと考えたほうがよいと思います。
炭素規制は重荷であると同時に、域内メーカーの守りにもなる
「つくる」層にとって炭素コストは重荷です。しかし、それだけでは片面しか見ていないことになると思います。EUにはCBAM(炭素国境調整措置)という制度があり、これは域外から輸入されるセメント・鉄鋼などにも、域内メーカーと同じ水準の炭素コストを課す仕組みです。制度の詳しい仕組みはCBAMを解説した記事にまとめています。
つまり、EU域内のメーカーだけが排出コストを負担し、域外の競合は負担しない——という不公平な状況を防ぐための制度です。域内メーカーからすれば、炭素コストは重荷であると同時に、安い域外品との価格競争から自社を守ってくれる壁にもなります。規制がそのまま参入障壁として働く構造は、この業種を見るうえで欠かせない視点だと思います。
ただし、これは「規制があるから買い」という単純な話ではありません。壁の高さや対象品目は制度の運用次第で変わりますし、域内メーカー同士の競争がなくなるわけでもないからです。あくまで「重荷と守りの両方が同時に存在する」という事実を押さえておく、というのが当サイトの立場です。
数値が「異常」になりやすい業種でもある——見送った実例から
資源・素材株を見るときにもうひとつ注意しているのが、業績の振れの大きさです。当サイトでは以前、スペインのステンレス鋼メーカーであるアセリノックスを調べたことがあります。その際、配当性向が285.89%、PERが78.52倍という水準になっていました。
配当性向が100%を大きく超えるということは、その期の利益以上の配当を出していることを意味します。PERが78.52倍という水準も、通常の素材株の感覚からするとかなり高く見えます。こうした数字は、業績が一時的に落ち込んだ期に配当を維持しようとした結果や、利益水準が急に縮んだ結果として現れることがあります。当サイトはこの銘柄への投資を見送りました。
この実例が示しているのは、「この会社が悪い」ということではなく、素材株は業績の振れが大きいぶん、配当性向やPERといった指標が単年で見ると異常な水準になりやすいということだと思います。指標の異常さに気づかずに数字だけを見て判断すると、実態とずれた評価をしてしまう可能性があります。単年の数字だけで判断せず、なぜその数字になっているのかを確かめる姿勢が、この業種では特に必要だと感じています。
まとめ:何で儲かっている会社かを知ってから買う
- 資源・素材株には商品市況・炭素コスト・最終需要の3つが効き、しかもタイミングがずれる
- 事業は掘る/つくる/加工する/流通させるの4層に分けられ、それぞれリスクの取り方が違う
- 炭素規制は「つくる」層には重荷だが、CBAMを通じて域内メーカーの守りにもなる
- 資源・素材株は業績の振れが大きく、指標が単年で異常な水準になりやすい業種でもある
資源・素材株は、「安いときに買う」というタイミングの発想よりも、「この会社は掘る・つくる・加工する・流通させるのどの層にいて、何が効いて儲かっているのか」を知ってから向き合うほうが、当サイトの立ち位置には合っていると思います。
この記事の検証方法
- アセリノックスの配当性向285.89%・PER78.52倍は、当サイトが同社を調査した際に確認した数値です。本記事では投資を見送った実例として、社名のみ紹介しています
- EU-ETS・CBAMの制度内容は、当サイトの別記事(本文中にリンク)で一次資料をもとに解説済みのものを参照しています
- 4層に分類した各企業の事業内容は、当サイトの個別記事で解説済みの内容にもとづいています。業績数値・株価は本記事では扱っていません
- 商品市況(原油・銅・鉄鉱石などの価格水準や先行き)は、当サイトで実測していないため本記事では扱っていません
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています(本記事で挙げた個別企業を保有しているとは限りません)
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載の指標・制度内容は本文記載の各時点で確認した情報にもとづいており、変更される場合があります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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