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この記事の結論
- 欧州企業の決算には、決算期の呼び方・調整後利益・配当の見かけの金額という3つの罠があります
- 当サイトが実際に踏んだ罠を、ブルクハルト・コンプレッション、SPIE、キネティックなど実例つきで紹介します
- 調整後の数字が悪いわけではありません。乖離の理由を確かめずに使うのが危ない、というのがこの記事の立場です
- 対策は3つだけです。期を自分で読み替える/法定の数字から見る/配当は権利落ち履歴を自分で足す
欧州企業の決算資料は、米国株の感覚でそのまま読むと数字を取り違えます。会社が「FY2025」と呼ぶ期を情報サイトは「FY2026」と表記していたり、報告純利益が前年比で大きく落ちているのに営業利益はむしろ伸びていたり、配当利回りの表示に特別配当が混ざっていたり。どれも会社が嘘をついているわけではなく、資料の作り方の癖によるものです。
200銘柄を超える決算資料を実際に読んでいく中で、この癖には何度も引っかかりました。この記事では、その中でも特に読み違えやすい3つの罠を、当サイトの実例つきで整理します。
罠1:決算期の呼び方が資料によって違う
日本企業の多くは3月期決算ですが、欧州企業は12月決算が主流です。ただし12月決算でない会社(3月期・6月期・9月期など)では、会社が自社で呼ぶ期の名前と、情報サイトが付ける期の名前がずれることがあります。
当サイトで実際に確認した例が、スイスのブルクハルト・コンプレッションです。決算期末が3月の同社の「2026年3月期」の決算を、会社自身は「FY2025」と呼んでいました。ところが大手の決算データサイトstockanalysis.comでは、同じ決算が「FY 2026」と表記されていたのです。会社の呼び方と情報サイトの呼び方が1年ずれる。この問題は、決算期が6月のドルマカバでも同様に確認しました。
どちらが正しい・間違っているという話ではなく、会計年度をどの基準で数えるかという慣習の違いです。しかし読者としては、「FY2025」という表記だけを見て、それが暦年のどの期間を指すのか分からないまま数字を比較してしまう危険があります。当サイトの記事では、この混乱を避けるために決算期末の年と月をそのまま使った表記(例:2026年3月期)に自分で読み替えて統一しています。会社発表の「FYいくつ」という呼び方は、参考程度にとどめるのが安全です。
罠2:「調整後」利益と法定利益の乖離
欧州企業は「調整後EBITA」「コアEBITDA」「ヘッドライン利益」のような、会社独自の調整後指標を決算資料の前面に出す傾向があります。これ自体は珍しいことではなく、一時的な費用を除いて事業の実力を示す狙いがあるのですが、何を除いたのかを確かめずに数字だけ受け取ると、実態と逆の印象を持つことがあります。当サイトが実際に確認した例を並べます。
| 会社 | 目立つ数字 | 法定・実態の数字 | 乖離の理由 |
|---|---|---|---|
| SPIE(仏) | 2025年12月期の報告純利益 1億7,640万ユーロ(前年比▲35.4%) | 営業利益はむしろ増加 | 転換社債のデリバティブ評価による非現金費用1億7,590万ユーロ |
| キネティック(英) | 会社発表の調整後EPS 31.5ペンス | 法定EPS 20ペンス | 前期は米国事業の減損で法定は純損失 |
| イージージェット(英) | 会社が主指標として発表する「ヘッドライン税引前利益」 | 法定の税引前利益は別に開示 | 燃料ヘッジ等の一時要因を除く会社独自の集計 |
SPIEの例が分かりやすい典型です。報告純利益だけを見ると「前年比で3割以上の減益」という悪い決算に見えますが、その正体は転換社債の評価損という非現金の会計処理で、事業そのものを示す営業利益はむしろ伸びていました。逆にキネティックのように、会社が前面に出す調整後EPSと法定EPSの差が大きく、その差の理由が前期の減損という一度きりの要因である場合、翌期以降も同じ調整が続くとは限りません。
調整後の指標が嘘だと言いたいわけではありません。事業の実力を見るうえで有用な場面もあります。危ないのは、「何を除いたのか」を確かめずに調整後の数字だけを受け取ってしまうことです。減損・訴訟費用・デリバティブの評価損は、会社にとっては「一時的」でも、その期に現実に起きた出来事です。まず法定(reported)の数字を見て、そのうえで調整後との差がどこから来ているのかを決算資料の注記で確認する、という順番が安全です。
罠3:配当の「見かけの金額」
配当も、表示されている年間配当額をそのまま利回り計算に使うと数字がずれることがあります。当サイトが実測した中でも代表的なのが、次の3パターンです。
- 特別配当の混入。英国のダネルムは通常配当0.450ポンドに特別配当0.250ポンドが上乗せされており、イタリアのラショナルも通常配当16.00ユーロに特別配当4.00ユーロが混ざっていました。表示上の「年間配当」を見ただけでは、この先も同じ水準が続くのか、今回限りの上乗せなのかが分かりません
- 株式分割の未反映。ドルマカバは2025年10月に1株を10株に分割しました。会社資料に残っていた「9.20フラン」という配当額は、分割後の株式に当てはめると0.920フランに読み替える必要があります
- 減配前の数字が残っている。テイラー・ウィンピーの表面利回りとして出回っていた約9.66%という数字は、減配される前の実績に基づいたものでした
これらはいずれも、表示されている「年間配当額」を鵜呑みにすると起きる誤解です。対策は1つで、権利落ち(ex-dividend)の日付と金額を1年分並べて、自分の手で足し合わせることです。当サイトが個別銘柄の記事で紹介している配当額は、すべてこの手順で確認したものです。なお欧州株は年1回払いが多数派(201銘柄を実測したところ119社が該当)なので、米国株のように四半期ごとに配当が出ることを前提にしないことも合わせて意識しておくとよいと思います。
権利落ち履歴を自分で確認するには、証券会社の画面だけでなく、会社の投資家向け情報(IR)ページや取引所の適時開示を直接見に行く必要が出てきます。日本の主要ネット証券は欧州の現地市場を取り扱っていないため、こうした一次資料への窓口として、欧州株を日本語で取引できるサクソバンク証券を使っています。
結局、確認する手順は3つだけでいい
ここまで3つの罠を見てきましたが、どれも英語力の問題ではなく、確認の手順の問題です。当サイトが決算を読むときに必ず通している手順は、次の3つだけです。
- 決算期は「年+月」に自分で読み替える。会社発表の「FYいくつ」という呼び方はそのまま信じず、決算期末の年月で統一する
- 法定の数字から先に見る。調整後の指標は、何を除いたのかを注記で確認したあとで参考にする
- 配当は権利落ち履歴を1年分、自分で足す。特別配当・株式分割・減配前の数字が紛れていないかをそこで確認する
この3つさえ押さえておけば、決算発表のたびに数字に振り回されることはかなり減ると思います。
まとめ:数字は「読み替えて」から使う
- 罠1:決算期の呼び方。会社発表と情報サイトで1年ずれることがある。決算期末の年月に読み替える
- 罠2:調整後利益と法定利益の乖離。SPIE・キネティックのように、何を除いたかで印象が逆転することがある。法定の数字を先に見る
- 罠3:配当の見かけの金額。特別配当・株式分割・減配前の数字が混ざる。権利落ち履歴を自分で足す
- 対策はこの3つだけ。あとは決算資料を見るたびに機械的に確認するだけでいい
決算資料の癖を知っているかどうかで、同じ数字でも見え方が変わります。焦って結論を出す前に、この3つの読み替えを済ませてから判断していただければと思います。
この記事の検証方法
- ブルクハルト・コンプレッション、SPIE、キネティック、イージージェット、ダネルム、ラショナル、ドルマカバ、テイラー・ウィンピーの数字は、いずれも当サイトが各社の決算資料・配当履歴を実測した際の確認結果です(詳細は各銘柄の個別記事を参照)
- 欧州株の配当支払回数(年1回が119社)は、201銘柄を実測した集計にもとづきます
- 決算発表の頻度に関する記述は、一般的な傾向として書いています
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています(本記事で扱った銘柄を保有しているとは限りません)
当サイトの個別銘柄記事は、この手順で検算したものだけを載せています。
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載の決算数値・配当額・会計処理は本文記載の各時点で確認した情報に基づいており、その後の決算発表や訂正により変更される場合があります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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