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この記事の結論
- 食品・飲料株は「値上げが通るか」で、ブランド/原料・中間材/設備の3つに性格が分かれます
- 「不況でも人は食べる」ので守りの株とされますが、原材料インフレ・低成長・為替という3つの弱点があります
- 当サイトの実測では、食品・飲料・たばこの中央値PERは16.13倍で、医薬・ヘルスケア(23.96倍)より低い水準でした
- たばこは値上げが最も通る例外ですが、規制と社会的な逆風という別の論点を抱えています
「不況でも人は食べる」。食品・飲料株は、そう説明されることが多い業種です。景気が悪くなっても売上が急に消えるわけではないので、守りの株(ディフェンシブ)の代表格として語られます。
ただし、当サイトが扱っている欧州の食品・飲料関連企業を並べてみると、事業の性格は一様ではありません。値上げが通るかどうかで、会社の顔つきがまったく違って見えてきます。この記事では、その分かれ方と、「守りの株」と言われることの中身、そして値上げが最も通るとされるたばこという例外について整理します。個別企業の業績数値や株価は扱いません。
食品・飲料株は「値上げが通るか」で3つの顔に分かれる
食品・飲料株とひとくくりにされがちですが、消費者との距離によって値上げのしやすさはまったく違います。当サイトが記事にしている企業を、ブランドの有無と川上・川下の位置で3つに分けると次のようになります。
| 層 | 値上げのしやすさ | 当サイトの関連記事 |
|---|---|---|
| ブランドを持つ会社 | 消費者が指名買いするため、比較的通しやすい | ネスレ(瑞)、ダノン(仏)、リンツ(瑞・チョコレート)、エミー(瑞・乳製品)、ロイヤル・ウニブリュー(丁・飲料)、エブロ・フーズ(西) |
| 原料・中間材をつくる会社 | メーカー向けに供給する立場で、値上げが通りにくい | バリー・カレボー(瑞・製菓メーカー向け原料)、ビスコファン(西・食品用ケーシング) |
| 設備をつくる会社 | 食品会社の設備投資の波に業績が連動する | クローネス(独・飲料製造設備)、GEA(独・食品加工機械) |
この3層は、それぞれ違う理由で投資家の関心を集めていると思います。次の見出しから順に見ていきます。
ブランドを持つ会社は値上げできる。ただし度を越すと客が離れる
ネスレやダノンのような世界的なブランドを持つ会社は、消費者が「この銘柄でなければ」と指名買いする商品を抱えています。だからこそ、原材料費や人件費が上がったときに、その分を製品価格に転嫁しやすい立場にあります。これは欧州のラグジュアリー株が値上げできる理由を書いた記事と同じ構造ですが、食品にはラグジュアリーにはない歯止めがかかります。
ラグジュアリーは「高いこと自体が価値」になり得ますが、食品は生活必需品です。値上げが度を越すと、消費者はプライベートブランドや安い代替品に乗り換えてしまいます。ブランド力による値上げ余地には、この意味で上限があると考えたほうがよいと思います。リンツのようなチョコレートの高級ブランド、エミーのような乳製品、ロイヤル・ウニブリューやエブロ・フーズのような地域に根ざした飲料・食品ブランドも、程度の差はあれ同じ制約の中にいます。
原料・中間材と設備の会社は、消費者に近い会社と話がまったく違う
バリー・カレボーやビスコファンは、消費者ではなく食品メーカーに製品を供給する立場です。取引先はブランド企業のように「指名買い」してくれる消費者ではなく、自社もコストに敏感な企業です。主原料の価格が変動したとき、その負担をどこまで取引先に転嫁できるかが、この層の会社にとっての焦点になります。転嫁できなければ、原材料費の上昇分をそのまま自社で被ることになります。
クローネスやGEAのような設備メーカーは、また別の力が効きます。食品・飲料会社が新しい製造ラインに投資するかどうか、つまり食品セクター全体の設備投資が出るかどうかで受注が左右されます。食品セクターの中では、この層がもっとも景気に敏感だと言えます。ブランドの会社が「消費者の財布」に左右されるのに対し、設備の会社は「他社の投資判断」に左右される、という違いです。
「守りの株」と言われる理由と、3つの限界
食品・飲料株が守りの株とされる理由はシンプルです。景気が悪くなっても、人は食べることをやめません。他の業種のように売上が急減しにくいというのは、その通りだと思います。ただし、これは「値下がりしない」ことを意味しません。当サイトが考える限界は3つあります。
- 限界1:原材料インフレ。値上げで転嫁しきれない分だけ、利益率が落ちます。前述のとおり、ブランドの会社でも転嫁には限度があります
- 限界2:成長が遅いこと。食品・飲料は生活必需品であるがゆえに、市場が急拡大することは考えにくい業種です
- 限界3:為替。ネスレのようにスイスフラン建てで世界に売る会社は、フラン高が業績の逆風になるとされます
限界2の「成長が遅い」は、株価指標にも表れています。当サイトが2026年8月29日に実測した掲載銘柄のPER(実績)の中央値は、業種別に見ると、食品・飲料・たばこが16.13倍だったのに対し、医薬・ヘルスケアは23.96倍でした。市場が食品・飲料に織り込んでいる将来の成長期待は、医薬・ヘルスケアほど高くない、という読み方ができます。
たばこという例外——値上げは最も通るが、論点も抱える
この業種の中で異質なのがたばこです。インペリアル・ブランズやスカンジナビアン・トバコ・グループのようなたばこ関連企業は、値上げが最も通る商売とされます。ニコチン依存という性質上、値段が上がっても購入量が大きく落ちにくいためです。高配当の銘柄が多いのも、この業種の特徴として知られています。
一方で、たばこには規制と社会的な逆風という、他の食品・飲料企業にはない要素があります。健康影響を理由とした規制の強化は各国で続いていますし、EUタクソノミーのようなESGの枠組みの中では、投資対象から意図的に外す考え方も存在します。値上げが通ることと、事業を取り巻く環境が安定していることは、別の話です。当サイトはたばこ株の是非を判断しません。「値上げが最も通る業種でありながら、規制と社会的な論点を抱えている」という事実を示すところまでが、この記事の役目だと考えています。
まとめ:「不況でも食べる」は売上の話であって、利益の話ではない
- 食品・飲料株は「値上げが通るか」で、ブランド/原料・中間材/設備の3つに性格が分かれる
- ブランドの会社は値上げできるが、度を越すと消費者が安い代替品に移るという歯止めがある
- 守りの株と言われるが、原材料インフレ・低成長・為替という3つの限界がある
- たばこは値上げが最も通る例外だが、規制と社会的な論点を抱えている
「不況でも食べる」は売上の話であって、利益の話ではないと思います。守りの株という一言でくくる前に、その会社が値上げを通せる立場にいるのかどうかを見ておくと、見え方が変わってくるはずです。
この記事の検証方法
- 食品・飲料・たばこ(16.13倍)と医薬・ヘルスケア(23.96倍)の業種別中央値PERは、当サイトが2026年8月29日に掲載銘柄を対象に実測した数値です。業種の分け方は当サイトが記事の業種表記から機械的に分類したもので、公式な業種分類(GICS等)ではありません
- 各社の事業内容(ブランド/原料・中間材/設備)は、当サイトの個別記事で解説済みの内容にもとづいています。業績数値・株価・配当利回りは本記事では扱っていません
- 原材料(カカオ・穀物等)の価格水準や先行きは、当サイトで実測していないため本記事では扱っていません
- たばこの規制動向・ESGの扱いは一般に知られている構造を示すもので、当サイトはたばこ株への投資の是非を判断していません
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています(本記事で挙げた個別企業を保有しているとは限りません)
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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