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この記事の結論
- 欧州株の配当課税は①現地源泉税→②日本20.315%→③外国税額控除の3段階。③は確定申告しないと使えない
- 租税条約の限度税率を超える分は控除の対象外。ドイツ11.375%、スイス25%は日本の確定申告では戻らない
- 控除限度額は所得税額×(調整国外所得金額÷所得総額)で決まり、給与所得が大きい人ほど枠は小さい
- 使い切れない分は3年間繰り越せるが、上場株式等の配当は金額にかかわらず申告不要も選べる
欧州株を買うと、配当を受け取るたびに現地の税金と日本の税金の両方が引かれます。この二重課税を調整する仕組みが外国税額控除で、使うには確定申告が必要です。
ただし、ネット上には「確定申告すれば全部戻る」という書き方も見かけます。実際には戻らない部分があり、しかもその割合は国によってかなり違います。ドイツ株なら配当の約11.4%、スイス株なら25%は、日本の確定申告では取り返せません。
この記事では、国税庁の資料と租税条約の条文を根拠に、実際にいくら戻るのか・何が戻らないのか・どう申告するのかを順に整理します。国ごとの税率の比較そのものは欧州株の配当税を国別に比較にまとめてあるので、あわせてご覧ください。
本記事は一般的な制度の解説であり、個別の税務アドバイスではありません。実際の申告にあたっては、必ず税務署または税理士にご確認ください。
結論:欧州株の税金は3段階でかかる
配当が手元に届くまでに、税金は次の順番で動きます。
| 段階 | 誰が引くか | 税率 | 取り戻せるか |
|---|---|---|---|
| ①現地の源泉税 | 現地の税務当局(自動で天引き) | 独26.375%/瑞35%/仏10% | 条約の限度税率までは②から控除できる |
| ②日本の課税 | 証券会社が源泉徴収 | 20.315%(①を引いた後の金額に対して) | ― |
| ③外国税額控除 | 自分で確定申告 | ― | ②の税額から一定額を差し引ける |
②が「①を引いた後の金額」にかかるのがポイントです。租税特別措置法第9条の2により、国外株式の配当等については外国所得税の額を差し引いた後の金額が日本での課税対象になります。つまり日本側では、二重課税の一部がすでに自動で緩和されています。
そのうえで、③の外国税額控除を確定申告で使うと、さらに一定額が戻ってきます。③は自動では適用されません。特定口座(源泉徴収あり)を使っていても、放っておけば①の税金は戻らないままです。
申告しなかった場合の手取り(配当10万円のケース)
| 国 | 現地で引かれる額 | 日本で引かれる額 | 手取り |
|---|---|---|---|
| フランス(条約10%) | 10,000円 | 約18,283円 | 約71,716円 |
| ドイツ(26.375%) | 26,375円 | 約14,957円 | 約58,668円 |
| スイス(35%) | 35,000円 | 約13,204円 | 約51,795円 |
計算式は配当額 ×(1 − 現地税率)× 0.79685です。同じ10万円の配当でも、国が違うだけで手取りに約2万円の差が出ます。ここから外国税額控除で取り戻せる分を上乗せしていく、というのが以降の話です。
外国税額控除とは何か・いくら戻るのか
国税庁は外国税額控除を次のように説明しています。
居住者は、所得の生じた場所が国内であるか、国外であるかを問わずすべての所得について日本で課税されますが、国外で生じた所得について外国の法令で所得税に相当する租税の課税対象とされる場合、日本及びその外国の双方で二重に所得税が課税されることになります。この国際的な二重課税を調整するために、一定額を所得税等の額から差し引くことができます。
国税庁 確定申告書等作成コーナー「外国税額控除とは」
重要なのは「一定額」という部分です。払った外国税が全額そのまま戻るわけではなく、上限(控除限度額)があります。
控除限度額の計算式
国税庁「外国税額控除を受けられる方へ(居住者用)」に掲載されている算式は次のとおりです。
所得税の控除限度額 = その年分の所得税額 ×(その年分の調整国外所得金額 ÷ その年分の所得総額)
言い換えると、「所得全体のうち海外由来の所得が占める割合」の分しか枠がありません。給与が大きく配当が小さい人ほど、枠は小さくなります。
所得税の枠を使い切っても外国税額が残る場合は、復興特別所得税 → 地方税(道府県民税・市町村民税)の順に控除が続きます。地方税の控除限度額は、所得税の控除限度額に次の割合を乗じた金額です。
| 住所地 | 道府県民税 | 市町村民税 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 指定都市以外 | 12% | 18% | 30% |
| 指定都市 | 6% | 24% | 30% |
具体例:ドイツ株の配当10万円で計算する
単純化した概算です。実際の数字は所得構成によって変わります。
- その年分の所得税額:20万円
- その年分の所得総額:310万円
- 調整国外所得金額(ドイツ株の配当):10万円
- ドイツで源泉徴収された税額:26,375円
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 控除の対象になる外国所得税額 | 10万円 × 15%(条約限度税率) | 15,000円 |
| 所得税の控除限度額 | 20万円 × 10万円 ÷ 310万円 | 約6,451円 |
| 復興特別所得税の控除限度額 | 4,200円 × 10万円 ÷ 310万円 | 約135円 |
| 地方税の控除限度額 | 6,451円 × 30% | 約1,935円 |
| その年に控除できる合計 | ― | 約8,521円 |
控除対象は15,000円あるのに、この年に実際に使えるのは約8,521円にとどまります。使い切れなかった約6,479円は控除限度超過額として3年間繰り越せますが、翌年以降に枠が空かなければ結局そのまま消えます。
※復興特別所得税額は基準所得税額の2.1%として計算(令和7年分の国税庁資料に基づく)。所得総額・調整国外所得金額はいずれも税法上の定義があり、実際の計算は確定申告書等作成コーナーが自動で行います。
ここが多くの人にとっての現実です。「外国税額控除で二重課税は解消する」という説明は制度の建前としては正しいのですが、給与所得者が数万円〜十数万円の配当を受け取るケースでは、枠が小さくて全額は使えません。
落とし穴①:条約の限度税率を超える分は、そもそも控除の対象外
控除限度額の話の前に、もっと手前で切り落とされる部分があります。国税庁の「外国税額控除の対象とならない外国所得税」には、次の項目が明記されています。
日本が租税条約を締結している相手国等において課される外国所得税の額のうち、その租税条約の規定によりその相手国等において課することができることとされる額を超える部分に相当する金額
国税庁「外国税額控除を受けられる方へ(居住者用)」
つまり租税条約が「この国はここまでしか課税してよい」と定めた税率を超える部分は、日本の外国税額控除では一切考慮されません。控除限度額の枠が余っていても関係ありません。
| 国 | 現地源泉税 | 条約の限度税率 | 控除対象 | 日本では戻らない分 |
|---|---|---|---|---|
| フランス | ― | 10% | 10% | なし |
| ドイツ | 26.375% | 15% | 15% | 11.375% |
| スイス | 35% | 10% | 10% | 25% |
ドイツの15%は日独租税協定第10条2(b)、スイスの10%は当サイトで確認している数値です。配当10万円で言えば、ドイツ株は11,375円、スイス株は25,000円が、日本の確定申告では手の届かない場所に行きます。
スイスのネスレが「配当利回りは悪くないのに手取りが伸びない」と言われるのはこの構造が理由です。BMWなどドイツ株も程度は軽いものの同じ問題を抱えています。逆にロレアルをはじめとするフランス株には、この取りこぼしがありません。
NISA口座も控除の対象外
同じ「対象とならない外国所得税」のリストには、非課税口座(NISA)内の上場株式等の配当等に課された外国所得税も挙げられています。NISAでは日本側の課税がそもそも発生しないため、調整すべき二重課税がないという理屈です。
NISAで外国株を持つと現地源泉税は引かれたまま戻りません。証券会社ごとのNISA対応状況は欧州株が買えるネット証券の比較で整理しています。
落とし穴②:現地への還付請求は自分でやるしかない
条約の限度税率を超えた分は、理屈のうえでは現地の税務当局に直接還付を請求すれば戻ります。日本の税務署でも証券会社でもなく、ドイツならドイツ、スイスならスイスの当局が窓口です。
| 国 | 窓口 | 公表されている条件 |
|---|---|---|
| ドイツ | 連邦中央税務庁(BZSt) | 2023年1月1日以降、申請は電子提出が必須。請求期限は所得が発生した暦年の末日から4年以内。居住地の税務当局が発行する居住証明が必要 |
| スイス | 連邦税務庁(ESTV) | 国別に還付申請フォームが用意されており、日本向けのページも公開されている |
出典はBZSt(ドイツ連邦中央税務庁)とESTV(スイス連邦税務庁)の日本向けページです。
手間に見合うかを正直に考える
当サイトの立場は「多くの個人投資家にとっては現実的ではない」です。理由は3つあります。
- 申請書類と手続きがすべて現地の言語・様式・制度に従う。日本の証券会社は代行しません
- 日本の税務署から居住者証明書を取り寄せる手間が別途かかる。ドイツの場合は居住証明が必須です
- 金額が小さい。スイス株の配当が年10万円なら還付対象は25,000円。ドイツ株なら11,375円です
年間の配当が数十万円規模になり、かつ英語・独語の書類作業が苦にならないなら検討の余地があります。そうでなければ、「スイス株・ドイツ株は現地税を取り戻せない前提で利回りを見る」ほうが判断を間違えません。欧州の高配当株ランキングで実質利回りを併記しているのはこのためです。
確定申告の手順と必要書類
必要書類
国税庁が挙げている添付書類は次の3点です。
- 外国税額控除に関する明細書(居住者用)
- 外国所得税額を課されたことを証する書類
- 国外源泉所得の金額の計算に関する明細を記載した書類
2つ目の「証する書類」には、外国で源泉徴収された税額が分かる資料が該当します。特定口座を使っているなら証券会社が交付する特定口座年間取引報告書、そのほか配当計算書や取引報告書が手がかりになります。どの書類が要件を満たすかは所轄の税務署に確認してください。証券会社によって交付書類の名称や記載項目が異なります。
手順
- 書類を集める。年間取引報告書・配当計算書など、現地で引かれた税額が分かるものを揃えます
- 配当所得の課税方式を選ぶ。上場株式等の配当等は総合課税と申告分離課税を選択できます。ただし外国法人から受ける配当は配当控除の対象外なので、総合課税を選ぶメリットは国内株より小さくなります
- 確定申告書等作成コーナーに入力する。控除限度額は自動計算されます
- 「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」を作成し、添付する
- 控除しきれない金額は繰越の記録を残す。3年間繰り越せます
控除できるのは「いつの分」か
外国税額控除は、外国所得税を納付することとなる日の属する年分から控除します。源泉徴収方式の場合、その日は配当等の支払の日です。12月末に権利が確定して1月に支払われた配当は、翌年分の申告になります。
申告しないという選択
上場株式等の配当等は、金額にかかわらず確定申告不要制度を選べます(国税庁タックスアンサーNo.1330)。特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば売却益も同様です。
申告を見送るべきケースとしては、次のようなものが考えられます。
- 年間の配当が数万円で、控除限度額から見て戻る額が数千円にとどまる場合
- 申告することで合計所得金額が増え、扶養の判定・国民健康保険料などに影響が出る場合
2つ目は見落としやすい論点です。外国税額控除だけを取り出して有利・不利を判断できません。申告した配当所得は各種の判定に使われる所得に含まれるため、数千円の還付と引き換えに別のコストが増えることがあります。影響の有無は個々の状況で変わるので、判断に迷うなら税務署か税理士に確認してください。
よくある質問
Q. 特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要では?
日本の税金の精算は口座内で完結します。しかし外国で引かれた税は、特定口座では自動的に戻りません。外国税額控除は確定申告をして初めて適用されます。「特定口座だから何もしなくていい」は、日本の課税についてのみ正しい説明です。
Q. いくらから申告すべきですか?
金額の明確な基準はありません。戻る額は控除限度額(所得税額 × 調整国外所得金額 ÷ 所得総額)で決まるため、同じ配当額でも人によって変わります。目安としては、本記事の例のように配当10万円・所得総額310万円で戻るのは約8,500円という水準感を持っておくと判断しやすくなります。
Q. 売却益(譲渡益)にも現地の税金がかかりますか?
日独租税協定第13条5では、株式など特定の財産以外の譲渡から生じる収益は「譲渡者が居住者とされる締約国においてのみ租税を課することができる」と定められています。日本の居住者がドイツ株を売った利益は、日本でだけ課税されるということです。
したがって通常は現地で源泉徴収されず、日本の20.315%だけがかかります。ただし同条2には、資産価値の50%以上が不動産で構成される法人の株式については所在地国でも課税できるという例外があります。個別の銘柄がこれに当たるかは自分で判断せず、証券会社や税務署に確認してください。
Q. 為替レートはいつのものを使いますか?
特定口座を使っている場合は、証券会社が円換算した金額が年間取引報告書に記載されるので、それを使うのが実務です。
外国所得税額の換算については、国税庁の資料に「源泉徴収による外国所得税はその配当等の額の換算に適用する外国為替の売買相場による」と定められています。つまり配当本体の換算に使ったレートと同じレートで統一するのが原則です。一般口座で自分で換算する場合の扱いは税務署に確認してください。
Q. 控除しきれなかった分は捨てるしかないですか?
控除限度額を超えた金額(控除限度超過額)は、翌年以降3年間繰り越せます。逆に、控除限度額が余った年は、その余った枠を前年以前3年内の超過額に充てられます。ただし繰り越しても枠が空かなければ最終的に使えないまま終わります。繰越を使うにはその間も継続して確定申告が必要です。
まとめ
- 欧州株の配当には①現地源泉税 → ②日本の20.315% → ③外国税額控除の3段階がかかる。③は確定申告しない限り適用されない
- ②は①を引いた後の金額に対して課税されるため、二重課税の一部は自動で緩和されている
- 租税条約の限度税率を超える部分は外国税額控除の対象外。ドイツは11.375%、スイスは25%が日本では戻らない
- 控除限度額は所得税額 ×(調整国外所得金額 ÷ 所得総額)。国外所得の割合が小さいほど枠は小さい
- 使い切れない分は3年間繰り越せるが、枠が空かなければ消える
- 現地当局への還付請求は自分でやるしかない。ドイツはBZStへ電子提出(4年以内・居住証明必要)、スイスはESTV。多くの個人投資家には手間が見合わない
- NISA口座内の配当に課された外国所得税は控除の対象外
- 上場株式等の配当は金額にかかわらず申告不要を選べる。戻る額が数千円なら見送る判断も合理的
- 制度の全体像は本記事のとおりだが、個々の申告内容は必ず税務署または税理士に確認すること
そもそも欧州の個別株が日本の大手ネット証券で買えない理由はなぜSBI証券・楽天証券では欧州株が買えないのかにまとめています。
この記事の検証方法
- 手数料はサクソバンク証券の公式手数料表から計算しています
- 株価・為替レートは本文記載の基準日に実測した値です
- 業績・配当は企業の公式IR資料(一次資料)のみを出典としています
- 税制は国税庁の一次資料で確認しています
- 筆者はヨーロッパ在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座で欧州株を実際に保有しています
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は税制に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談・税務アドバイス、または特定の銘柄の売買を勧誘するものではありません。記載の税率・計算例・手続きは2026年8月14日時点で国税庁および財務省の公開資料、各国税務当局の公表情報に基づき確認したものですが、税制および租税条約は改正されることがあり、また実際の課税関係は口座の種類・証券会社の取扱い・所得構成など個々の状況により異なります。本記事の計算例はあくまで単純化した概算であり、実際の控除額を保証するものではありません。確定申告の要否および具体的な申告内容については、必ず所轄の税務署または税理士にご確認ください。投資および申告の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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