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この記事の結論
- 欧州グリーンディールは2019年12月の政策文書(COM(2019) 640 final)から始まり、その後欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119)によって法的な拘束力を持つ数値になりました
- 2030年に1990年比55%以上削減、2050年に純排出ゼロという目標は、宣言ではなく法律に書かれた数値です
- この大きな政策が企業のコストや資金調達に効いてくる経路は、主にEU-ETS・CBAM・EUタクソノミーの3つに整理できます
- ただし、政策の対象が広いことと投資できる会社が多いことは別です。今回実測した264銘柄のうち、再エネ関連株は5社にとどまりました
- この記事は制度の説明であり、特定の銘柄や業種を推奨するものではありません
欧州グリーンディールという言葉は、ニュースや証券会社のレポートでたびたび目にします。ただ、この言葉と、自分が持っている欧州株の数字が、実際のところどこでつながっているのかが分かりにくいという方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、欧州グリーンディールは単なるスローガンではなく、欧州気候法という法律によって数値目標が定められた政策です。そして、その数値が企業の数字に変わっていく経路は、主にEU-ETS(排出量取引制度)・CBAM(炭素国境調整措置)・EUタクソノミーという3つに整理できます。この記事では、政策文書から法律、そして企業への3つの経路まで、順番に見ていきます。
グリーンディールは2019年12月の政策文書から始まった
欧州グリーンディールは、欧州委員会が公表した政策文書COM(2019) 640 finalが出発点です。ブリュッセル発、2019年12月11日付の文書で、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長のもとで打ち出されました。
この文書は自らを「新しい成長戦略(a new growth strategy)」と位置づけています。2050年に温室効果ガスの純排出をゼロにし、経済成長を資源の消費から切り離すことを目指す、という内容です。あわせて、この文書はエネルギーの生産と使用がEUの温室効果ガス排出の75%超を占めるとしており、エネルギー分野の転換が政策全体の中心にあることが分かります。
ここで押さえておきたいのは、この時点では「成長戦略」という政策文書にすぎなかったという点です。文書そのものに法的な拘束力があるわけではありません。この文書に書かれた目標を、実際に守るべき数値に変えたのが、次に説明する欧州気候法です。
拘束力をつけたのは欧州気候法——2030年に55%、2050年にゼロ
グリーンディールに法的な拘束力を持たせたのが、欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119)です。2021年7月29日に発効し、それまで「戦略」だった目標が、法律で定められた数値に変わりました。主な目標をまとめると、次のとおりです。
| 目標年 | 削減率 | 基準年 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 2030年 | 55%以上削減 | 1990年比 | 欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119) |
| 2040年 | 90%削減(国際クレジットの活用を最大5%まで容認) | 1990年比 | 2026年4月の欧州気候法改正 |
| 2050年 | 純排出ゼロ(クライメート・ニュートラル) | — | 欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119) |
もともとの目標は「2030年に55%以上削減、2050年に純排出ゼロ」の2段階でしたが、2026年4月の改正で、その中間に「2040年に90%削減」という目標が加わりました。あわせて、質の高い国際クレジットの利用を最大5%まで認める、という条件もついています。
ここで大事なのは、これが「掲げている目標」ではなく「法律に書かれた数値」だという点です。ただし、目標が法律に書かれていることと、その目標が実際に達成されることは別の話です。2030年・2040年・2050年という年限は、あくまで法律上の目標であり、達成が約束されているという意味ではありません。制度は今後も見直される可能性があるため、投資判断の前には欧州委員会の公式ページなど最新の情報をご自身でも確認されることをおすすめします。
企業の数字に変わる3つの経路
ここまでの政策や法律は、規模が大きすぎて、そのままでは投資判断に使いにくいというのが正直なところです。そこで当サイトでは、グリーンディールが企業のコストや資金調達に効いてくる入口を、次の3つに分けて考えています。それぞれの制度について当サイトで別記事にまとめていますので、この記事では数値には立ち入らず、経路の位置づけだけを整理します。
1つ目は、EU-ETS(排出量取引制度)です。排出そのものに費用がかかる仕組みで、対象となる企業は排出量に応じてコストを負担します。制度の詳しい内容は、EU-ETSを解説した記事にまとめています。
2つ目は、CBAM(炭素国境調整措置)です。EUの外から輸入される製品にも、炭素の値段がつくようになる仕組みです。詳しくはCBAMを解説した記事で扱っています。
3つ目は、EUタクソノミーです。「何がグリーンな経済活動なのか」を法律で定義し、それによってお金の流れ方そのものを変えていく仕組みです。詳しくはEUタクソノミーを解説した記事をご覧ください。
この3つは、当サイトがそれぞれ別の記事として書いてきたものです。この記事は、その3本を1つの地図としてまとめる位置づけだとお考えください。
政策が大きいことと、投資先が多いことは別
グリーンディールという政策そのものは、EU経済のほぼ全体を対象にした非常に大きな枠組みです。ただ、政策の対象範囲が広いことと、実際に投資できる会社の数が多いことは、分けて考える必要があると当サイトでは考えています。
実際、当サイトが再エネ関連株を実測した記事では、対象とした264銘柄のうち、再エネそのものを手がける企業はわずか5社という結果でした。「グリーンディール」と聞いて連想しやすい再エネ企業そのものは、思っているより数が少ないというのが実測から見える姿です。
むしろ政策の影響を強く受けるのは、公益株や資源・素材株といった、一見グリーンディールと結びつきにくい業種の会社であることが多いようです。公益株を扱った記事で見たように、公益株は規制に守られると同時に、規制に縛られる商売でもあります。また、資源・素材株を扱った記事で見たように、これらの銘柄には商品市況と炭素コストの両方が効いてきます。どの企業が恩恵を受け、どの企業が負担を強いられるかを、この記事の時点で断定することはできませんが、少なくとも「再エネ関連株を買えばグリーンディールの恩恵を受けられる」という単純な話ではなさそうです。
まとめ:グリーンディールは「テーマ探し」より「コストの地図」として使う
- グリーンディールは2019年12月の政策文書(COM(2019) 640 final)から始まった
- 法的な拘束力を与えたのは欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119)で、2030年に55%以上削減、2050年に純排出ゼロという数値が法律に書かれている
- 2026年4月の改正で、2040年に90%削減という中間目標が加わった
- 企業の数字に変わる経路は、主にEU-ETS・CBAM・EUタクソノミーの3つに整理できる
- 政策の対象範囲が広いことと、投資できる会社が多いことは別。再エネ関連株は実測264銘柄中5社にとどまる
ここまで見てきたグリーンディールという政策について、筆者は「テーマ株を探すための地図」として使うよりも、「自分が持っている会社のコストがどこから来ているのかを説明する地図」として使うほうが役に立つと思います。政策の名前だけを見て再エネ関連の銘柄を探しても、実測で見る限り対象となる会社はごく少数だからです。
実際に政策の影響を受けやすいのは、セメントや鉄鋼、電力といった、いわゆる「普通の会社」のほうだと考えられます。手元の銘柄を見るときも、「この会社の政策」ではなく「この会社のコストが、EU-ETS・CBAM・EUタクソノミーのどれと関係しているか」という順番で考えたほうが、実態に近づけるのではないかと思います。
この記事の検証方法
- グリーンディールの出発点となる政策文書COM(2019) 640 final(2019年12月11日付)は、EUR-Lexにて2026年9月5日に当サイトが確認しました
- 欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119、2021年7月29日発効)の内容、および2026年4月の改正内容は、欧州委員会の気候政策ページにて2026年9月5日に当サイトが確認しました
- EU-ETS・CBAM・EUタクソノミーの具体的な制度内容は、当サイトのそれぞれの解説記事に譲り、この記事では数値の記載を控えています
- 再エネ関連株264銘柄・5社という実測結果は、当サイトの別記事「再エネ関連株を実測した記事」にもとづきます
- この記事は制度の説明を目的としたものであり、特定の銘柄や業種を推奨するものではありません。政策の目標年(2030年・2040年・2050年)は法律に書かれた目標であって、達成が約束されているという意味ではありません
- 制度は今後も変わる可能性があるため、投資判断の前には欧州委員会などの公式情報で最新の内容をご確認ください
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載しているCOM(2019) 640 final・欧州気候法(Regulation (EU) 2021/1119)などの内容は、2026年9月5日時点で当サイトが確認した情報にもとづいており、その後の制度改正により内容が変更される場合があります。政策の目標年や削減率は法律上の目標であり、達成を保証するものではありません。どの企業が政策の恩恵を受ける、あるいは負担を負うかについても、本記事は断定するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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