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この記事の結論
- 米国がEU産品に課す関税は、ほぼすべての品目に15%の上限が設けられています。適用開始は2025年8月1日です
- ただし鉄鋼・アルミニウム・銅は50%と、15%上限の対象外です。航空機・化学品などはMFN税率(最恵国税率)のみが適用されています
- この枠組みのもとになった共同声明は「法的拘束力を持たない」と明記された政治合意です。EUの対抗措置も撤回されたわけではなく、発動が停止され、その停止が延長されている状態です
- 本記事は欧州委員会が公表した内容にもとづいています。米国側の一次情報は当サイトで十分に確認できていません
2025年の後半、米国とEUの関税をめぐるニュースが相次ぎました。「合意した」という報道を見て、関税をめぐる話はひとまず決着したと感じた方もいると思います。ただ、実際に欧州委員会が公表している資料を読むと、「合意」という言葉から連想する落ち着いた状況とは、少し違う実態が見えてきます。
この記事では、欧州委員会が公表している内容にもとづいて、いまの関税がどうなっているのかを品目ごとに整理します。あわせて、「合意」という言葉のわりに、制度としてはまだ動きうる状態にある理由も書きます。先に断っておくと、この記事は関税がこの先どうなるかを予測するものではありません。米国側の一次情報は当サイトで十分に確認できていないため、本記事はEU側(欧州委員会)の公表内容にもとづいて書いています。
いまの関税はどうなっているか——15%上限と品目別の例外
米国は2025年8月1日から、ほぼすべてのEU産品に15%の上限を適用しています。ただし、全品目が一律というわけではなく、品目によって扱いが分かれています。欧州委員会の公表資料をもとに整理すると、次のようになります。
| 品目 | 対米関税率 | 位置づけ |
|---|---|---|
| ほぼすべてのEU産品 | 15%(上限) | 今回の枠組みの基本ルール |
| 鉄鋼・アルミニウム | 50% | 15%上限の対象外 |
| 銅・銅製品 | 50% | 15%上限の対象外 |
| 自動車・自動車部品 | 15%(上限の対象) | 基本ルールの範囲内 |
| 医薬品・半導体 | 15%(上限の対象) | 基本ルールの範囲内 |
| 航空機・航空機部品・化学品・コルク・天然資源 | MFN税率のみ | 今回の上限の枠外=従来の最恵国税率 |
表からわかるとおり、「15%上限」と一括りにできるのは自動車や医薬品などの主要品目までで、鉄鋼・アルミニウム・銅はその外にあります。逆に航空機や化学品などは、そもそも今回の枠組みの対象外で、従来のMFN税率がそのまま適用されています。同じ「対米関税」というくくりでも、品目によって中身がかなり違うことが、この表からわかると思います。
なぜ「合意」なのに不安定なのか——政治合意と対抗措置の停止
この関税の枠組みは、2025年7月27日の政治的合意を経て、2025年8月21日に共同声明として確認されました。名称は「米EU相互的で公正かつバランスの取れた貿易に関する枠組み合意」です。内容は、EUが米国の工業品への関税を撤廃し、農水産品などで市場を開放する一方、米国はEU産品にほぼ全面的に15%の上限を設ける、というものです。
ここで押さえておきたいのは、この共同声明が「法的拘束力を持たない」と明記された政治合意だという点です。条約や協定のように締結国を法的に拘束するものではなく、両者が合意した方向性を確認した文書という位置づけです。この一文があるかどうかで、合意の重みはかなり変わると思います。
EU側の対応も、「合意=決着」とは言い切れない形になっています。EUは2025年7月24日に対抗措置を採択していますが、共同声明以降、この対抗措置は撤回されたのではなく、発動が停止されたままです。そして2026年7月31日には、この停止をさらに延長することが決まっています。撤回ではなく停止という位置づけである以上、制度としてはまだ動きうる状態にあると言えると思います。
どの業種に効きやすいか——税率が分ける構造の違い
品目ごとの税率が違うということは、業種によって関税の効き方の構造も変わるということです。ここで整理するのは、あくまで「どういう構造で影響を受けやすいか」であって、株価がこの先どう動くかを断定するものではありません。
鉄鋼・アルミニウムは50%と、他の品目より税率が突出しています。当サイトの資源・素材株の記事では、この業種が商品市況・炭素コスト・最終需要という複数の要因が重なりやすい業種だと整理しました。関税は、そこにもう一つ、外部要因が加わる形になります。
自動車・自動車部品は15%上限の対象に含まれます。当サイトの自動車株の記事では、この業種のPERの低さが「割安」ではなく業績の振れの大きさを映していると整理しました。関税は、その業績が振れやすい業種に、もう一つの変数が加わる形になります。
医薬品も15%上限の対象に含まれます。当サイトの医薬・ヘルスケア株の記事では、この業種はPERが全業種の中でも高く、それだけ市場からの期待が高い業種だと整理しました。期待の高さと関税という外部要因が、決算のうえでどう重なってくるかは、今後の各社の開示を見ないとわかりません。
一方、航空機・航空機部品・化学品・コルク・天然資源はMFN税率のみが適用され、今回の15%上限の枠外です。同じ「関税」というニュースの見出しでも、品目によって直接受ける構造の重さがまったく違うことが、こうして並べるとわかります。
くり返しになりますが、ここで整理したのはあくまで「影響を受けやすい構造」であって、どの業種の株価が上がる・下がるという話ではないと考えています。
CBAMという逆向きの制度もある
関税とは逆方向の制度として、CBAM(炭素国境調整措置)もあわせて知っておくとよいと思います。CBAMはEU域外からの輸入品に炭素コストを課す仕組みで、2023〜2025年の移行期間を経て、2026年1月1日から本格適用が始まっています。対象はセメント・鉄鋼・アルミニウム・肥料・電力・水素の6品目です。
関税は米国がEU産品に課すもの、CBAMはEUが域外からの輸入品に課すもの——向きは逆です。ただ、どちらも「国境を越える取引に追加のコストがかかる」という点では共通しています。特に鉄鋼・アルミニウムは、米国向けには50%の関税、EUに輸入する側にはCBAMという、両方向からコストの圧力を受けうる品目になっています。制度の詳しい仕組みは、当サイトのCBAMを解説した記事にまとめています。
まとめ:合意はしたが、固まってはいない
- 米国がEU産品に課す関税はほぼすべての品目に15%の上限。適用開始は2025年8月1日
- 鉄鋼・アルミニウム・銅は50%で15%上限の対象外。航空機・化学品などはMFN税率のみ
- 枠組みのもとになった共同声明は法的拘束力を持たない政治合意。EUの対抗措置も撤回ではなく停止が延長されている状態
- 業種によって関税の効き方の構造は異なる。鉄鋼・アルミ(素材)、自動車、医薬品それぞれで、当サイトの既存の実測記事と重なる論点がある
関税は「合意した」の一言で片づけられるほど単純な話ではなく、制度としてはまだ動いている最中だと思います。品目ごとの税率と、合意の性格(法的拘束力を持たない政治合意であること)を分けて見ておくと、この先ニュースを追うときの見え方が変わってくるはずです。
この記事の検証方法
- 関税率・適用開始日・共同声明の内容は、欧州委員会の公式ページ(policy.trade.ec.europa.eu、2026年9月1日確認)を出典としています
- 米国側の公式資料までは当サイトで確認できていないため、本記事はEU側(欧州委員会)の公表内容にもとづいて書いています
- 共同声明は法的拘束力を持たない政治合意であり、内容は変わりうるものです
- EUの対抗措置の採択日・発動停止の延長は、欧州委員会の公式ページ(policy.trade.ec.europa.eu、2026年9月1日確認)を出典としています
- CBAMの対象品目・適用開始日は、当サイトの既存記事(CBAM解説記事)ですでに一次資料をもとに解説済みの内容を参照しています
- 業種ごとのPER・配当利回りは、当サイトの各業種記事(資源・素材株、医薬・ヘルスケア株、自動車株)ですでに実測済みの数値を引用しています
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています(本記事に登場する銘柄を保有しているとは限りません)
この記事を書いた人:Kawa
ヨーロッパ在住30代・サイドFIRE中の兼業投資家。日本の証券会社では買えない欧州株を、現地から実際の数字で解説しています。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載の関税率・制度内容は2026年9月1日時点で欧州委員会が公表している情報にもとづいており、今後変更される場合があります。共同声明は法的拘束力を持たない政治合意であり、内容が変わる可能性があります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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